あらかじめ言い訳しますが、私は数学が役に立つと思っていて、実際に役立てている人間です。
数学教育の学会に行くと、ほぼ100%の確率で見かける『ぐるぐるの図』というものがあります。
「ぐるぐるの図」は見慣れてしまうと水戸黄門の印籠と化してしまう感もありますが(心理学系のクロンバックのα係数もこれに近い)…、日常生活や社会にある事象を「数・図形・式」などを用いて「数学的に表現や処理」をして、そこから導き出した結果をまた現実へと「戻して活用」するっていう一連の流れを表したものです。
要は「数学って現実とかけ離れたものではなく、身近な問題を解決する道具になりますよ」ってことを図で見える化しているのが「ぐるぐるの図」ですね。
この「ぐるぐるの図」が登場してから、しつこいくらい「数学は現実で役に立ちます」って言われるようになり、いろんな教育の場で「役立つからやりましょう(勉強しましょう)」という趣旨の「役立ちの押し売り」が始まっていますが、言い過ぎるのって科学的に(心理学的に…注1)よくない結果になると思うんです。
(注1)ザイオンス効果(単純接触効果)って接触回数が増えれば増えるほど良い方向になるって習いますが、嫌なモノの接触回数が増えると嫌な気持ちが拡大されます。(参考:池谷裕二『自分では気づかない、ココロの盲点』)
この考えって「役に立つなら勉強する」っていう論理の上に立っていると思うんですが「役に立つなら勉強する」ってそもそも幻想だと思うんです。…というのも私は前職の自衛隊で「役に立つなら勉強する」が幻想であることを、他教科である英語と英語の先生を通して散々学んだ・学ばされたからです。
そのため私は「役に立つから勉強する」という考え方を「役立ち幻想(イリュージョン)」って呼んでます。
で、私は自衛隊で他教科である英語と英語の先生を通して散々学んだ・学ばされたことを白状すると…
「役立つから勉強する」という命題は「恐ろしいほどに成り立たない」という残酷な真実です。(注2)
(注2)あ、「役に立つから勉強する」は恐ろしいくらい成り立ちませんが、(数学的に)逆の「勉強したら役に立つ」は成り立つと思いますよ。だから、勉強させる動機づけとしては「役立つ」以外の要素(例えば「面白い」とか…)を持ってきた方が功を奏します。
「面白い⇒勉強する⇒役立つ」みたいな論理です。面白いって始めた勉強が役立つことってありませんか?
私が自衛隊で数学を教えていたとき、その対象はパイロット子補生(航空学生って言われます)なんですが…、パイロットに数学が必要という話は置いておいて…、パイロットに英語が必要なことは想像がつきそうですよね。ええ「パイロットには英語が必要で、実際に使いますし、(パイロットにとって)英語はめっちゃ役に立つ」んです
そして、そのことを学生も理解…どころか十分と言っていいほどちゃんと理解しているんです。ですが、ここからが大事で「英語が役立つ」とわかってくれていたら「英語を勉強してくれるか」っていったら違うんです。(パイロット候補生は)面白いくらいぜ~~んぜん勉強してくれないんです。
英語は確実に使う、そしてめちゃくちゃ役に立つ、でもびっくりするくらい勉強しない…が絶望的な現実だったりするんです。
そんな状況を見て英語の教官はいつも「なんで英語が役に立つってわかっているのに、学生は英語を勉強しないの」と常に怒ってましたが、そんな英語の先生にも分かるように、私は次の言葉を英語の先生に言って差し上げていました。
「Excelって英語の1/100の勉強時間で英語の100倍も役に立つのに、英語の先生って全然Excelを勉強してくれないんですいよね」って。「こんなに(Excelって)役に立って、勉強に必要な時間も数分で済むのに、その数分の勉強も英語の先生はやってくれませんもんね」って。
英語がものになるのってどのくらい期間がかかるんでしょうか?1年?2年?下手したら10年以上かかってモノにできない人っていっぱいいるでしょう。でもExcelは違います、数分勉強しただけで業務改善が一気に捗るくらい役に立って強力なんです。でもね。やらなんですよ…所詮
だから「数学は役に立つ」を納得させることは、ほとんど至る所でナンセンスってことになるんだと思っています。
なぜなら、納得させることが大変で、納得させたとしても英語のように勉強なんかしてくれない。ということは、先生が生徒を納得させる時間も生徒が先生に納得させられる時間も無駄以外の何物でもないってことになります。
なので、私は「数学って役に立つからおやりなさい」っていうのを基本的にはやめています。ただし、取材などで本当に役立つって思って聞いている人には、ちゃんと伝えるようにしています。
そうではない相手から「数学って何の役に立つんですか?」って聞かれたときは「やりたくない言い訳のコレクションをしに、質問するのはおやめなさい」もしくは「自分に嘘をつくのはおやめなさい」って答えることにしています。
あ、あと、これは余談ですが、文系の方っておバカなことをバレないために「数学は私に役立たないからやりません」というニュアンスの言い訳する人いますが、やめた方がいいと思いますよ。理系の人には「こんだけ役立つ数学を役立てることができない残念なオムツの持ち主」って映りますし、それよりなにより言い訳ばかりしている「言い訳のファンタジスタ」って思われてしまいますから。
役に立つ事象なんてネットで検索しても生成AIに聞いても1分以内に回答が出てくるような内容で、そんなこと(数学が役に立つこと)も調べられないの?って思われてしまいますので。