「何事も成功するまでは不可能に思えるものである」ネルソン・マンデラ

学問って理解が困難だと、理解するのは不可能だなぁ…って思いがちですが(特に数学)、「一度理解ができると何でこんな簡単なことができなかったんだろう」って思うものです。なので、受験生はすぐに理解ができないことがあっても諦めないでくださいね。あと一歩で理解が降臨するかもしれません。

裏を返すと、一度理解すると理解できない人の気持ちがわからなくなるもので、これを知識の呪い(Curse of knowledge)っていいます

Camerer Colin, Loewenstein, George; Weber, Martin (1989).The Curse of Knowledge in Economic Settings: An Experimental Analysis. Journal of Political Economy,97(5),1232–1254.
DOI:https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/261651

まぁ〜会社で上司が部下の仕事内容に不満がある時「なんでこんな簡単なこともまともにできないんだ」ってキレている場面が「かつてはドラマ」などでもありましたが、原因(の1つ)は「知識の呪い」です。部下の仕事内容にキレている上司も、昔は全然できなかったはずなのに、できなかったときの自分を想像できないんです。

この現象(知識の呪い)を他で見てみましょう。例えば、数学。
数学の先生に対して「数学の先生は、ずっと数学ができていたから、数学ができない人の気持ちがわからない」と言う人がそれなりにいますが、(科学的には)そうとも限りません。仮に「数学ができなかった人」が「数学ができるようになって」数学の先生になったとしても、その人は「数学ができない人の気持ち」なんて分からないんです。新人を罵倒しまくるパワハラ上司のように…。
で、一応補足しておきますが、中学・高校の先生でも「大学の数学でこけてるって方は結構いて」結構な人数の数学の先生が「数学が分からない」って経験をしているはずなんです。

生徒の分からない気持ちを分かっている数学の先生は「生徒や学生の分からないと言う気持ち」を罵倒するのではなく、真摯に向き合って理解しようと努力されている方なんです。
受験業界では「劣等生の気持ちは、劣等生だった人にしか分からない」とか、「劣等生だったから、劣等生(分からない人)の気持ちがわかる」…といういかにも説得力がありそうなフレーズを耳にしますが、実は超絶非科学的で、おそらく虚構です。
大事なことなのでもう一度言いますね「『劣等生だったから、劣等生の気持ちがわかる』は虚構です」。本気でそう言っていたらただの知識・経験不足ですが、そう言っている本当の理由はビジネスが背景にあるからです。平たく言うと、そう言えば「金が儲かるから」です。

新人にキレ倒す上司のことを少し補足すると…脳には感情移入ギャップ(hot-cold empathy gaps)ってものがあって「冷静なときにキレ倒している自分のことを想像できない」し、「キレ散らかしているときに冷静な自分って想像できない」んです。
恋愛をしていないと恋愛をしている人の相談にうまく乗れない(その気持ちが分からない)っていう原因(の1つ)も感情移入ギャップが関係します。
「私の父親はゴルフ中毒ですが、ゴルフをやったことがない私にはその気持ちを理解できません」し、「数学中毒の私の気持ちなんて、数学をやらない父親や数学が大嫌いな文系の人にとっては理解不能」です…きっと。
冷静:ゴルフをやっていない状況  感情:ゴルフに熱中している状況
冷静:数学をやっていない状況   感情:数学に熱中している状況

Loewenstein George (2005). Hot-cold empathy gaps and medical decision making. Health Psychology.
DOI: https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2F0278-6133.24.4.S49

なので「分からない人の気持ち」が「分からない」のは、脳の仕業だったりするんです。

まさか昭和から平成をジャンプして令和になったこの時代に、この昭和感満載なくだり(部下が上司にキレ倒す、パワハラ系)はないだろうって思っていたらありましたよ。私の古巣である防衛省で。しかも防衛審議官っていう、事務方NO2(事務次官級)の方が…。

防衛審議官に懲戒処分、パワハラで停職30日 依願退職

防衛省は27日、パワーハラスメントがあったとして中嶋浩一郎防衛審議官を同日付で30日停職の懲戒処分にしたと発表した。事務次官級の懲戒処分は2017年に起きた南スーダンの日報問題で当時の黒江哲郎次官が受けたのが最後だった。

中嶋氏は防衛省内外への深刻な影響と被害者の心情に鑑みるとし、27日付で依願退職した。

防衛省によると、中嶋氏はこれまでにもパワハラに関し注意を受けたことがあった。3月には不適切な言動をしないように増田和夫次官から口頭で厳重注意を受けた。

12月に内部部局の職員から人事部局に相談があり、調査した。複数の課長級職員に対して能力を過小評価する発言を繰り返していたほか、職務の適正範囲を超える過度な叱責が10月以降にあったことが判明した。

中嶋氏は「私の言動をハラスメントと感じてしまった人がいることに対して本当に不徳のいたすところであり、反省している」とのコメントを出した。

指揮監督や指導が不十分だったとして増田氏も中谷元防衛相から厳重注意を受けた。防衛省を巡っては7月にも内部部局で幹部職員3人がパワハラの通報を受け、処分されたばかりだ。
日本経済新聞 日経web