山口新聞 リレーエッセイ

小月から飛び出せ!海鷲の翼

防衛省海上自衛隊で数学教官をしている佐々木淳です。
下関市と山陽小野田市の境にある小月航空基地で勤務し、
教育する学生は航空学生と呼ばれる20歳前後の若者です。

制服とパイロット

自己紹介でこのように説明すると、いろいろと疑問に思われる方が多かったので、1つ1つお話をしていきます。

海上自衛隊で勤務していると「普段の着ている制服を見せて」とよく言われますが、
残念ながら私は制服を着用し勤務する自衛官ではありません。

防衛省・自衛隊には自衛官の他に、背広(スーツ)を着用し勤務する事務官・技官・教官がいます。
私は教官のため、背広を着用して勤務しています。

以前、検察を舞台とした「HERO」というドラマがあり、
木村拓哉さん演じる検察官と、松たか子さんや北川景子さん演じる検察事務官がタッグを組んで事件を解決していました。
「HERO」で例えると私は、松たか子さんや北川景子さんが演じる検察事務官のようなイメージでしょうか。

航空学生とは、海上自衛隊におけるパイロットや戦術航空士(戦術の判断を下す)と呼ばれる搭乗員を目指す幹部候補生のことを言います。
高校卒業後に入隊した場合は、最短19歳で練習機T-5の操縦桿(そうじゅうかん)を握ります。尚、航空自衛隊にも同じ制度があります。

海上自衛隊のパイロットと聞いて疑問に思った方もいるかもしれません。
「自衛隊のパイロット」と言えば「航空自衛隊」をイメージする方が多いと思いますが、
陸上自衛隊、海上自衛隊も航空機を所有し、パイロットがいます。
山口県内にある海上自衛隊の航空機を例に挙げますと、
南極で物資を輸送する際に使うヘリコプターCH-101や
洋上に着水できる救難飛行艇US-2などがあります。

救難飛行艇US-2は、2013年6月太平洋横断中のニュースキャスター辛坊治郎さんらを乗せた
小型ヨットが浸水・遭難した事故で活躍したため、耳にしたことのある方が多いかもしれません。
海上自衛隊のパイロットは、大海原を縦横無尽に活躍することから海鷲(うみわし)とも呼ばれています。

「山本五十六」式
私は航空学生の数学教官として12年になりますが、学生教育をする上で、意識している言葉があります。
それは「やってみせ言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」という、
かつて海軍大将であった山本五十六の言葉です。

数学は好き嫌いがはっきりと分かれる科目で、一度苦手意識を持ってしまうと克服するのが大変難しい特徴があります。
航空学生の中にも数学が苦手な学生は多くいます。苦手な学生に「やりなさい」と一方的に言っていては、できるようにはならないばかりか、嫌になる一方です。
だからこそ苦手な学生が、できるところから「やってみせ言って聞かせて」みることからはじめ、できたら「ほめる」ように心がけています。
それがどんなに簡単なことでも、できるようになったら成功体験となって積み重なり自信につながっていきます。
「数学は苦手でしたが、できるようになったら自信がつきました」と言って巣立ち、パイロットになった卒業生を数多く見てきました。
苦手なものに挑戦し、克服することで手に入る自信は、人を何倍も輝かせる。そんな学生を1人でも多く輩出できたらと思い、今日も背広で小月航空基地に向かいます。

山口に住んでいる若い人達が、一人でも多く私の学生になってくれることを期待しています。

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